防犯まちづくりのススメ

第2回「人」でなく「環境」に着目する

2000年頃から各地で防犯まちづくりの取り組みが盛んになってきました。国や自治体でも様々な指針などが作られましたが、その参考になったのが「防犯環境設計」という考え方です。英語では、Crime Prevention Through Environmental Designの頭文字を取ってCPTED(セプテッド)とも言われます。なお、ここでいう「環境」とは、「地球環境問題」や「自然環境」という意味ではなく、犯罪が行われる状況のことを指します。 防犯環境設計は70年代のアメリカで最初に提唱されました。その頃、犯罪件数の増加に悩んでいたアメリカでは、犯罪者の検挙・処遇(いわゆる刑事司法システム)だけで安全なまちを実現しようとすることに限界が感じられていました。

みなさんもマスコミで様々な事件について、容疑者の生活状況や生い立ちなどの情報を耳にすると思います。しかし、それらの情報のなかから犯罪の原因を特定すること、その原因を除去することは極めて困難だということにも気づかれるでしょう。こうした背景から、犯罪者という「人」に着目するのではなく、犯罪の起こる「環境」に注目する考え方が生まれたわけです。

そうした考え方のひとつが「防犯環境設計」です。

防犯環境設計の4つの基本原則

「防犯環境設計」では、犯罪を行おうとする「犯罪企図者」が、「被害対象」となる人や物に接近することで犯罪が起こると考え ます。こうした状況を防ぐために、(日本で一般に使われる)防犯環境設計では4つの基本原則が提案されます(左図参照)。

(1) 監視性の確保

見通しや夜間照度の確保、死角の解消などによって、多くの人の目(視線)が自然な形で届くようにして、犯罪企図者に「目撃されるかも知れない」と感じさせる状況をつくること

(2) 領域性の強化

地域住民が「わがまち意識」を持って強固なコミュニティを形成するとともに、地域の公共施設などの維持・管理を適切に行うことで、犯罪企図者に犯罪のしづらい地域だと感じさせる状況をつくること

(3) 接近の制御

犯罪企図者が被害対象に接近するのを妨げることにより犯罪の機会を減少させること(例えば、ひったくり防止のために、車道と歩道を区分するガードレールを設けるなど)

(4) 被害対象の強化・回避

犯罪の被害対象となり得る人や物を強化したり、犯罪にあいそうな状況を回避させたりすること(例えば、住宅の窓を強固なものに交換する(強化)、暗い夜道の通行を避けてもらう(回避)など)

この4つの基本原則を組み合わせることで犯罪を防ごうとする考え方が「防犯環境設計」です。「人」に着目する方法が事後的なのに対し、犯罪の起こりにくい環境づくりは事前でも可能です。つまり病気になりにくい身体づくりのように、犯罪の「予防」ができるわけです。 次回からは4つの基本原則を順に解説します。

執筆・監修:独立行政法人建築研究所 主任研究員 工学博士(東京大学) 樋野 公宏

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