防犯まちづくりのススメ

第4回「領域性の強化」

「防犯環境設計」の4つの基本原則のうち次に紹介するのは「領域性の強化」です。ある空間が自分(たち)の領域すなわち「なわばり」であることを明示することにより、犯罪企図者に対して犯罪のしづらい空間だと感じさせる状況をつくることを指します。

領域性を強化する上では領域の階層化が重要です。誰でも自由に通行できる匿名性の高い「公的空間」と、住宅などのプライベートな「私的空間」との間に、「公」と「私」の緩衝領域となる「準公的空間」(あるいは準私的空間)を適切につくることで、領域の階層化は実現されます。例えば、図4-1のような袋小路は、誰でも入ることが認められますが、部外者は心理的に入りづらいと感じるでしょう。袋小路内にプランターや鉢植えなどが出ていると、居住者の雰囲気を感じて、より入りづらくなります。

8戸の住宅が面する袋小路

こうした緩衝領域を明示する手法として、図4-2では住宅地の内側(写真左側)の道路舗装を通常のアスファルト(写真右側) と異なる石畳風の仕上げにしています。物理的に進入を防ぐことはできませんが、心理的な障壁として機能します。先に例示した袋小路のプランターや鉢植えも同様の役割を持つ「領域表示物」であると言えます。

地区内の道路舗装を替えた住宅地

また、地域住民が「わがまち意識(帰属意識)」を持って強固なコミュニティを形成することも領域性の強化につながります。なぜなら犯罪企図者はそうした雰囲気を敏感に感じ取って、その地域をねらうのを避けるからです。それでは、地域住民に「わがまち意識」を持ってもらうためにはどうすればよいのでしょう? 都市計画の段階では「まちの顔」となる建物や公園、シンボルツリーなどを配置したり、地域の歴史・文化資産を保全・活用したりすることで、入居者が「わがまち意識」を持ちやすくなります。また公園などの公共施設が改修、新設される際、地域住民がその計画段階から参加することで、完成後の施設に対して愛着を感じると考えられます。

しかし、住んでいる地域に「わがまち意識」を感じるかどうかは、日常的なあいさつや近所づきあいを通じて、そこに顔見知りの関係が出来ているかどうかが最も大事な要件になると思います。旭川市のある地区では、子どもの見守り活動の評価指標として 「顔見知り率」を用いています。毎年アンケート調査を行って、見守る側と子どもの顔見知りの関係が広がっていることを確認しています。大きな災害の度に地域コミュニティの重要性が改めて認識されますが、地域コミュニティは防災だけでなく防犯にも有効です。 以上の通り、「領域性」はハードからソフトまでを含む広範な概念であると言えます。

※今回イラストと写真を引用した「防犯まちづくりデザインガイド」はこちらから無償でダウンロードできます。

執筆・監修:独立行政法人建築研究所 主任研究員 工学博士(東京大学) 樋野 公宏

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