防犯まちづくりのススメ

第5回「接近の制御」

「防犯環境設計」の4つの基本原則のうち3番目に紹介するのは「接近の制御」です。犯罪企図者が被害対象者(対象物)接近することを妨げ、犯罪の機会を減少させることを指します。 犯罪から少し話が逸れますが、日本の城には外敵の接近を防ぐために様々な手法が用いられています。接近が困難な丘陵地などに適地を求めるとともに、敵の侵入を防ぐ「壕」や、敵の勢いを鈍らせる「枡形」を設けるなどの工夫が見られます※1。

話を現代に戻すと、身近な例としてマンション共用玄関のオートロック、駐車場出入口の自動ゲートなどが挙げられます。これらは、住宅や自動車に犯罪企図者が接近することを妨げ、空き巣や自動車盗などの犯罪を抑止します。もちろん、これらの対策を用いても、他に抜け道があれば接近の制御は有効に機能しませんので、外周にフェンスや柵を巡らせることなども同時に必要となります。 図5-1は戸建て住宅地において、車庫の屋根や隣家の物置を足場にして二階に侵入しようとする犯罪企図者を描いたものです。このように上階への足場となるような物を設置しないことが重要ですが、やむを得ず設置する場合は、足場として使えなくするような工夫が必要です。具体的な対策として、侵入経路となる箇所に、先端のとがった金属や木を並べた「忍び返し」の設置などが考えられます。 しかし、忍び返しや有刺鉄線の街並みは決して心地良いものではありません。景観にも配慮した対策が求められます(図5-2)。

足場を利用した二階への侵入、接近の制御と景観が対立する事例

さて、住宅だけでなく人への接近の制御が必要な罪種もあります。その一つが、路上でバッグなどの持ち物を奪い取るひったくりです。警視庁生活安全総務課によると、ひったくりの59%はバイク、26%は自転車が犯行手段に使われます。よって、歩道と車道を分離したり、ガードレールや植栽を設置したりすることで、バイクや自転車の接近を妨げ、犯行の機会を減らすことができます。好例として横浜市泉区I地区のコミュニティ道路を紹介します。コミュニティ道路とは、住宅地において歩行者の安全性や快適性を高めるための道路整備手法で、I地区では平成14~16年にかけて歩車道の分離、歩道の新設、交差点のカラー舗装などが行われました。これらは交通安全対策として実施されたものですが、I地区ではひったくりを始めとする犯罪発生件数も減少したことが報告されています※2。前半部分で「接近の制御」が景観と対立する例を挙げましたが、ここでは「接近の制御」が交通安全と両立したと言えます。防犯まちづくりを進めるに当たって、防犯以外のテーマとの関係性は常に意識する必要があります。

次参考文献

※1 野原卓「街並みづくりと防犯 ?まちの免疫力-」、『防犯まちづくりデザインガイド』p.7

※2 宮崎緑・早川正行「生活道路の再生による防犯対策」、『安全・安心の手引き 地域防犯の理論と実践』p.6006

執筆・監修:独立行政法人建築研究所 主任研究員 工学博士(東京大学) 樋野 公宏

プロフィール 樋野氏との出逢い

このコーナーについて