防犯まちづくりのススメ

第6回「被害対象の強化・回避」

「防犯環境設計」の4つの基本原則のうち最後に紹介するのは「被害対象の強化・回避」です。被害対象とは、犯罪の対象となり得る物や人を指します。それらを強めて犯罪の遂行を困難にしたり(強化)、それらを犯罪の遂行しやすい時間・空間から移動させて被害を避けたりすること(回避)を指します。

「被害対象の強化」の最も分かりやすい例は、防犯性の高い建物部品(通称CP部品)の活用です(図6-1)。これは、官民合同で実施する防犯性能試験に合格し、目録に掲載・公表されたドア、窓、シャッターなどの建物部品を指し、その数は3,197品目に上ります(平成23年11月末時点)。

試験では、実際の侵入犯罪手口に対して5分間の抵抗性能を有することが確認されます。5分という数字は、実際の空き巣の被疑者に調査したところ、侵入に5分手間取ると約7割があきらめると回答したことによるものです。※1 住宅性能表示制度(住宅の性能を10分野にわたって等級や数値で表示する制度)でCP部品の使用の有無が評価項目になったこともあり、大手メーカーの最近の住宅では使用されることが多いようです。あるハウスメーカーが自社物件を調査したところ、防犯ガラスの窓は通常に比べて侵入されるリスクが約6割低かったそうです。※2

CP部品の窓には断熱性の高い複層ガラスもありますので、「エコ+防犯」の観点でご自宅を改修することもお勧めできます。また、CP部品の面格子を設置した窓であれば、蒸し暑い夏の夜に開放して、クーラーの使用を減らすことができます。

防犯性の高い建物部品

次に「被害対象の強化・回避」の原則からひったくり対策を考えてみましょう。被害に遭いやすい女性、高齢者に武道を教えて屈強にする、という対策も考えられますが現実的ではありません。警視庁では、自転車の前かごからのひったくり対策として 「かごごとすっぽりくるみちゃん」(図6-2)を作成、各地で取り付けキャンペーンを行っています。これも「被害対象の強化」の一例と言えるでしょう。あるいは、ひったくりの起こりやすい夜間の外出や、人通りの少ない道の通行を避けるという対策も考えられます。これは「被害対象の回避」の例と言えます。市民に回避行動をとってもらうため、多くの警察や自治体では、ひったくり発生箇所の地図(図6-3)や、発生時間帯や犯行手段、被害者の属性などの統計を公開しています。

情報公開に対するニーズの高まりを背景に、こうした情報公開はさらに進むことが予想されます。防犯ボランティア団体がパトロールのために活用するだけでなく、市民ひとりひとりが「被害対象の強化・回避」の参考にすることが望まれます。

かごごとすっぽりくるみちゃん

航空地図上に示されたひったくり発生箇所

次参考文献

※1 旭化成ホームズ株式会社「みまもり型防犯設計ガイド」

※2 (財)都市防犯研究センター「防犯環境設計ハンドブック 住宅編」JUSRIリポート別冊、第17号

執筆・監修:独立行政法人建築研究所 主任研究員 工学博士(東京大学) 樋野 公宏

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