防犯まちづくりのススメ

第7回「犯罪統計」

前大学の授業や市民向けの講演で「日本の犯罪は増えているか、減っているか?」と尋ねると、多くの方は当然のように「増えている」と答えます。しかし実際には、犯罪認知件数※1は2002年の285万件をピークに減少の一途をたどっています。

国際的に見ても、日本の犯罪は少ないと言えます。主要4か国と犯罪の発生率(人口10万人当たりの認知件数)を比較すると、 主要な犯罪、殺人のいずれも他国より少なく(図7-1)、OECD加盟34か国の中で日本は最も安全な国の一つとされています。※2 図7-2の通り、高度成長期に130万件前後で安定していた日本の犯罪認知件数は1980年頃から増加、1990年代後半から急増しました。犯罪件数が急増し始めた1995年は、阪神・淡路大震災(1月)、地下鉄サリン事件(3月)が起こった年でもあり、「安全」に対する国民の不安は一気に高まりました。

こうした状況に対して、国は犯罪対策閣僚会議を設置し、各種の指針や計画を作って、様々な対策を講じてきました。一方、身近な地域でも防犯ボランティアが活躍するようになりました。警察庁で統計を取り始めた2003年以降その数は増え続け、2010年末時点で44,508団体、約270万人が各地域で活動しています。単純計算すると、日本の人口の50人に1人が防犯ボランティアであることになります。

防犯ボランティア活動のなかでも象徴的なのが、青色回転灯を装備した防犯パトロール車両(通称「青パト」)を使ったパトロールです。自主的な防犯活動の気運の高まりを受けて、2004年12月から可能となった取り組みですが、2010年末時点でその登録台数は約3万5千台を数えます。千葉市美浜区の「幸町1丁目防犯パトロール隊」(図7-3)は、昼夜にわたる青パトでの巡回などで犯罪を激減させ、内閣総理大臣表彰を受けました。こうした取り組みが犯罪認知件数を押し下げる大きな力になっていると言えるでしょう。また、防犯活動の活発化は防犯の観点からだけでなく、地域の課題を地域で解決しようとする自治意識の表出としても評価されます。

さて、冒頭から用いている「犯罪認知件数」という言葉が気になった方はいないでしょうか。この数字は文字通り警察が犯罪を 「認知」した件数です。当然、全ての犯罪を計数することは出来ませんから、警察の統計に表れない「暗数」が存在することになります。暗数が実数に占める割合は罪種によって異なります。前出のOECDの調査では、暗数が比較的少ない罪種として殺人の認知件数を参照しています。一方、「警察に行っても解決しないだろう」、「色々聞かれると恥ずかしい」などの理由で被害届が出されにくい罪種もあります。

また、犯罪認知件数はあらゆる罪種の件数の合計です。つまり、殺人も自転車盗も同じ1件として数えます。ちなみに、2010年の犯罪認知件数の約23%を自転車盗が占めています。

これらを考慮すると、この数字だけで実際の治安を判断するのは必ずしも適切ではないと言えます。前回の連載で犯罪情報が公開されるようになったことを話しましたが、私たちは犯罪統計を読み解く「目」も鍛える必要があります。

※1 ここでは、刑法犯全体から交通関係業過を除いた「一般刑法犯」の認知件数を表す。

※2 OECD well-being indicators, 2011

各国における主要な犯罪及び殺人の発生率

一般刑法犯の認知件数の推移

執筆・監修:独立行政法人建築研究所 主任研究員 工学博士(東京大学) 樋野 公宏

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