防犯まちづくりのススメ

第8回「犯罪不安」

前回、日本の犯罪認知件数はこの10年減少傾向にあり、国際的に見ても安全であることを紹介しました。しかし、そのことを実感として感じられる方は少ないのではないでしょうか。

内閣府が毎年行っている「社会意識に関する世論調査」では、「現在の日本の状況について、悪い方向に向かっていると思われるのはどのような分野か」を複数回答で尋ねています。2005年2月の調査では、「治安」を選んだ人の割合が47.9%に達しました。犯罪認知件数のピークが2002年でしたから、それよりやや遅れてピークに達したことが分かります。なお、この年と翌年は、「国の財政」や「景気」など全25分野のなかで「治安」が一位でした。その後、犯罪認知件数の減少などを背景に「治安」を選択する人の割合は減少していますが、2011年の調査でも5人に1人が「治安」を選択しており、決して犯罪に対する不安が収まったとは言えない状況が続いています(図8-1)。ちなみに、20年前の1990年の犯罪認知件数はいまとほぼ同水準ですが、「悪い方向に向かっている」分野として「治安」を選んだ人の割合は10%でした。逆に「良い方向に向かっている」分野として「治安」を選んだ人の割合(26.5%)の方がずっと高かったのです。

上記の内閣府の調査は「治安」という大局的な視点から見たものですが、自分自身が犯罪にあうかもしれないという不安感はどうでしょうか。社会安全研究財団の「犯罪に対する不安感等に関する調査研究(第4回)」では、日頃、自分が犯罪被害にあう不安を感じていると回答した人が37.8%でした。この割合は男性よりも女性、小都市よりも大都市居住者の方が高いということも分かっています。一方、犯罪被害への不安感が高い場所としては、路上、繁華街、駅、公園、駐車場の順に高く、身近な空間が犯罪不安箇所になっていることが分かります(図8-2)。

「防犯まちづくり」は、犯罪だけでなくこうした犯罪不安を減らすことも目的に掲げています。なぜなら日々つきまとう犯罪不安もまた、人々の生活の質を悪化させるものだからです。ただし、犯罪不安を喚起する場所は、犯罪のそれとは必ずしも一致しません。両者が一致するように正しい知識を普及することも大事ですが、「防犯まちづくり」には犯罪が起こりやすい場所にも、犯罪不安が起こりやすい場所にも対応が求められます。とりわけ、犯罪が起こりやすいのに、人々が不安を感じない(油断してしまう)場所は危険ですので対応が必要です(図8-3)。

例えば、落書きや破壊行為、不法投棄などが見られる公園は、(もちろんそれらの行為自体が犯罪ですが)公園利用者の犯罪不安も喚起しますので、美化活動などでこうした状態を解消することも「防犯まちづくり」です。なお、こうした状態を放置すると、より深刻な犯罪が起こる公園になる可能性があることも忘れてはいけません。

世論調査での治安について

執筆・監修:独立行政法人建築研究所 主任研究員 工学博士(東京大学) 樋野 公宏

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