防犯まちづくりのススメ

第11回「防犯カメラの効果測定」

連載の第3回「監視性の確保」で書いたとおり、防犯まちづくりの基本は人の目によって犯罪の起こりにくい環境を作ることですが、それが難しい場所や時間帯においては、防犯カメラで補完することも有効です。

5年ほど前、イギリス国内には約420万台の防犯カメラが設置されており、観光客は一日に約300回も防犯カメラに映されるという話を聞いたことがあります。2005年にロンドンで起きた同時テロ事件やテロ未遂事件の犯人特定に活用されたというニュースをご覧になった方も多いと思います。

こうした防犯カメラに文字通り「犯罪を防ぐ」効果があるかについて、イギリスでは様々な評価研究が行われ、その結果が公表されています。一方、日本において防犯カメラの評価研究はほとんど行われていません。その理由として、犯罪発生データ入手の困難さ、防犯カメラ以外の要因の排除の困難さなどが考えられますが、他の先進国と比べて、費用対効果を評価する風土がないとも言えます。

こうした背景を受け、愛知県警では2007年度、県内でも犯罪発生件数の多い駐車場(店舗・マンション共用駐車場)、駐輪場(駅駐輪場)に防犯カメラを設置し、その効果を調べる実験を行いました。対象とする犯罪は、駐車場では自動車盗、車上ねらい、部品ねらい、駐輪場では自転車盗としました。ただし、対象地の犯罪が減っても、周辺の防犯カメラの無い駐車場でも同様に減ったとすれば、防犯カメラの効果とは言えません。そこで、対象地と合わせて周辺の駐車場・駐輪場についても調査することにしました。

半年間の実験の結果、対象駐車場では犯罪発生件数が前年同時期比で25%に減少し(4件→1件)、対象駐輪場では、52%に減少しました(27件→14件)。図11-1の通り、周辺の駐車場、駐輪場と比べても減少幅が大きいことが分かります。110番件数も対象駐車場からの通報は15件から1件に激減、対象駐輪場も6件から3件に半減しており、犯罪だけでなく迷惑行為も減少したと考えられます。各施設管理者にインタビューしたところ、実際に駐車場では走行マナーが向上したり、無断駐車が減ったりする効果が見られ、駐輪場では落書き、放置自転車が減少したということでした。犯罪と言えないような軽微な違反行為であっても、利用者は防犯カメラを意識するようです。

駐車場・駐輪場における犯罪発生件数

冒頭で述べたとおり、防犯カメラは人の目を補完する手段と位置づけられますが、普及に向けては他の手段と比べて費用対効果が優れていることが示される必要があります。そのためには設置目的を明確にし、それに対応した評価をきちんと行うことが重要です。

参考文献

樋野公宏(2008)「駐車場に設置する防犯カメラ等の効果及び利用者等の態度 -愛知県内での実験から」、日本都市計画学会学術研究論文集No.43-3、pp763-768

執筆・監修:独立行政法人建築研究所 主任研究員 工学博士(東京大学) 樋野 公宏

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