防犯まちづくりのススメ

第16回「維持管理・割れ窓理論」

子どもの頃、私はよく自宅前の道路の掃き掃除をさせられました。その時にはお隣の前まで少しはみ出して掃くように言われたものです。また、地域のイベントとして、大人と一緒に近所の公園や海岸の清掃をしたこともよく覚えています。

20代後半になって、都内で地域と関わることも少なく暮らしていましたが、知人の紹介で、近所の公園の清掃をお手伝いするようになりました。その公園では、毎週日曜、地域のボランティア団体が自治体との協定に基づいて、清掃や花育てなどの美化活動を行っていました(図16-1, 16-2)。

維持管理・割れ窓理論

住民による公園の美化活動

当時から防犯まちづくりの研究をしていた私は、その公園の「安心感」に注目しました。決められた活動日は日曜ですが、それ以外の日も、清掃や花の水やりのため住民が出入りをします。頻繁な清掃活動によって清潔な公園は人目も多く、犯罪など起きにくいだろうと感じたのです。

そこで、この地域のたくさんの公園を現地調査したり、近隣住民にアンケートを行ったりしたところ、次の2つのことが分かりました。1つは、公園の環境が悪くなる時にはゴミが散乱・不法投棄されている公園

2) 落書きや破壊行為の痕跡がある公園

3) 望ましくない行為・人物が見聞される公園

というように、段階を踏んで悪くなっていくということです(図16-3)。

ボランティア団体と区との協定を示す看板

このように、ささいな「秩序の乱れ」であっても、放置されればより深刻な犯罪、さらには地域の荒廃につながるという考え方は、管理水準の低い建物の窓が徐々に割られていくたとえから「割れ窓理論」(ブロークン・ウィンドウズ・セオリー)と呼ばれます。悪意を持つ者にとってみると、乱雑で魅力が低い場所は、人々の関心が払われない場所、あるいは犯罪や迷惑行為が許容される場所であるという印象を受けるでしょう。

もう1つの発見は、当初の予想通り、ボランティアが清掃・美化活動をしている公園の安心感が相対的に高いということです。ボランティアの存在により、図16-3の1)のような状態になることはありませんから、2)や3)の段階に進むこともありません。公共空間の維持・管理が適切に行われることは、それを行う人々の「活動」を促進することであり、また、維持・管理が地域住民によって行われれば、地域への関心や責任感といった「わがまち意識」を育むことにもなります。

人口が減少するなか、日本の都市づくりは「開発型」から「成熟型」に変化し、公共空間の維持・管理が重要になると言われます。その維持・管理を行政だけではなく、地域住民や利用者も力を合わせて行うこと、そしてそこに少しだけ防犯の視点を加味することが、安全で安心できる都市の実現につながると言えるでしょう。

参考文献

樋野公宏・小出治「住民による管理活動が公園の犯罪不安感に与える影響」、『日本建築学会計画系論文集』、

No. 592、pp 117-122、2005年6月

執筆・監修:独立行政法人建築研究所 主任研究員 工学博士(東京大学) 樋野 公宏

プロフィール 樋野氏との出逢い

このコーナーについて