防犯まちづくりのススメ

第17回「ビューティフル・ウィンドウズ運動」

今皆さまは東京の「足立区」について、どんなイメージをお持ちでしょうか?  東京都足立区は、東京23区の北東部に位置する人口約67万人、約30万世帯(2011年1月時点)の自治体です。2005年にはつくばエクスプレス、2008年には日暮里・舎人ライナーが開業し、また開業に合わせた開発が順調に進んだことで、人口も増加傾向にあります。一方、区内の刑法犯認知件数は2006年から都内の自治体として4年連続でワーストを記録してしまいました。これは、人口や面積を考慮すると必ずしも悪い数字ではなかったのですが、区に対する内外のイメージを下げる一因となっていました。

こうした状況を打破するため、足立区は「美しいまちづくり」で犯罪を抑止する「ビューティフル・ウィンドウズ運動(以下BW運動)」を始めました。これは、前回(第16回)紹介した「ブロークン・ウィンドウズ理論」を応用したものです。この理論はささいな「秩序の乱れ」が深刻な犯罪や地域の荒廃につながるという悪循環を理論化したもので、ニューヨークの治安回復に貢献したことでも知られています。しかし、行き過ぎたゼロ・トレランス(不寛容)は、ぎすぎすした息苦しい社会を生むという批判もあります。一方、BW運動は、悪いところを減らすだけでなく、良いところを増やすという好循環を目指すもので、「美しいまちは安全なまち」を合い言葉に花植え活動などを推進しています。

足立区ではBW運動のイメージキャラクターとして「ビュー坊」を登用し、実に色々なところで使っています(図17-1)。これは東京藝術大学の女子学生のデザインによるもので、名前には「ビューティフル」の「ビュー」と「view(見る)」という意味が込められています。私も5色のビュー坊が並んだストラップを携帯電話にぶらさげて愛用しています。

ビューティフル・ウィンドウズ運動

もちろん犯罪対策にも力を入れています。2009年12月には、警視庁と「治安再生の推進に関する覚書」を締結し、警察との連携を強化しました。これに基づき、足立区と警視庁は2010年4月、推進すべき数多くの対策をまとめた「足立区治安再生アクションプログラム」を策定しました。具体的には、365日、24時間、駅前の美化や放置自転車対策、防犯パトロールなどを行う「ビューティフル・キーパー」や、地域住民と一緒に地域の防犯上の課題を発見し、対策を検討する「まちの防犯診断」(図17-2)などを実施し、犯罪抑止に努めています。

まちの防犯診断の様子

執筆・監修:独立行政法人建築研究所 主任研究員 工学博士(東京大学) 樋野 公宏

プロフィール 樋野氏との出逢い

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