防犯まちづくりのススメ

第20回「緑と防犯(2)低植栽による侵入抑止」

この連載の第10回で述べた通り、アパートなど3階建て以下の共同住宅は、相対的に侵入窃盗のリスクが高くなっています。侵入経路は1階のバルコニーが多いと考えられますが、安易に塀を高くしたり、有刺鉄線を張り巡らしたりすることは景観上好ましくありません。そこで、景観と両立する侵入盗対策として、低植栽(灌木の寄せ植え)による、こうしたバルコニーなどへの侵入抑止効果を検証するための実験を行いました。実験は、アパートのバルコニー前に低植栽(いずれも模型)を設置し、被験者にバルコニーを乗り越えてもらって、その困難さを評価してもらうというものです。低植栽はサツキツツジを模したもの(図表20-1)とし、高さ3段階、奥行き4段階の組み合わせで計12種類を乗り越えてもらいます(図表20-2)。バルコニーは、手すりの高さが床面から1.5mのものを用意しました。

実際に用いた低植栽の模型

身軽な侵入者役となってもらう被験者は、身長160~180cmで、スポーツ経験があり体力に自信がある20代の男性25名です。侵入者の立場なので、できるだけ音を立てない、時間を掛けないよう実験前に伝えました。また、衣服のせんいなどの痕跡を残すと侵入者の特定につながるので、できるだけ植栽に触れないことも指示しました。

し被験者には実験後、各植栽の乗り越えの難易度を主観的に評価してもらいます。ただし、各被験者の主観にはばらつきがありますので、被験者が「容易」と評価しても、住宅防犯の専門家が見てそうでないと判断すれば「困難」という評価にしました。実験の結果分かったことは、以下の通りです。

・身長・体重や身体能力(跳躍力、握力など)よりも、低植栽の大きさの方が評価への影響が大きい。

・困難と評価する被験者の割合(以下「困難率」)は図表20-3の通り示される。

例えば、高さ70cmの低植栽で100%の困難率を目指すのであれば、奥行きは80cm以上必要である。

・低植栽の高さより奥行きが困難率に大きく影響する。

試枝の様子

どの程度の困難率を目指すかは、もちろんアパートの大家さんや居住者の考え方次第です。ただ、実際の侵入盗犯は、今回の被験者とは比較にならないほど目撃される恐怖を感じているわけですから、必ずしも困難率100%でなくても十分な抑止効果が期待できると思います。

英国では、侵入盗対策のために開発されたバラの品種もあるそうです。トゲのある植物は少し触れるだけで痕跡を残すことになるので、賢明な(?)侵入盗犯は、そうした対策の施された住宅を選ばないでしょう。日本でも、低植栽による侵入盗対策が普及すると、イギリスのような美しい街並みが実現するかもしれませんね。

執筆・監修:独立行政法人建築研究所 主任研究員 工学博士(東京大学) 樋野 公宏

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