防犯まちづくりのススメ

第22回「防犯まちづくりのための調査の手引き」

連載第15回で紹介した「防犯まちづくりデザインガイド」は、主に新たな住宅地を開発する際に参照してもらうことを想定して作りました。しかし、人口が減少して新規開発の増加が見込めない現状では、既成の住宅地の防犯まちづくりをどうするかが大きな問題になります。私は、地域が抱える問題を解決するためのモデルとして提唱される「SARA(サラ)モデル」の応用が有効だと考えます。SARAとは、問題の精査(Scanning)、分析(Analysis)、対処(Response)、評価(Assessment)の頭文字をとったもので、いずれの段階においても、地域住民、企業、自治体、そして警察などの協働が重要視されます。こうした考えから、私の所属する建築研究所では、2009年に「防犯まちづくりのための調査の手引き」を作成しました。これは、防犯まちづくりの現場において、地域の課題を客観的に精査・分析(SARAモデルのSA)するための調査手法を提案したものです。調査手法は図22-1に示す4種類で、いずれも地域住民から不安として挙げられやすい項目に対応しています。また、2011年にはその「実践編」を作成しました。地域の特性や状況を踏まえて「手引き」で紹介した調査手法を改良し、実際の調査に取り組んだ2つの事例を紹介しています。

防犯まちづくりのための調査の手引き

提案した調査手法のなかで最もお勧めしたいのが「みまもり量調査」です。「みまもり量」とは、住宅地道路における人の「目」の多さを定量化したもので、道路別、時間帯別に集計されます。調査員は、図22-2のように、歩行者の立場で住宅地を巡回します。一般的な交通量調査(調査員が道路端に座って数取り機をカチカチやる調査)と違い、庭先で立ち話をしたり、花いじりをしている住民の「目」も計測できるメリットがあります。

みまもり量調査の様子

調査結果は図22-3のような形で示されます。結果を受けた対処(Response)の方法として、防犯パトロールのルートを「みまもり量」の高い道路から低い道路に振り向けたり、「みまもり量」の低い道路に花壇を設置して人目を増やしたりすることなどが考えられます。街頭防犯カメラの設置箇所を検討する際にも活用できるでしょう。もちろん、一定期間が経ったら効果を評価(Assessment)することも重要です。

調査を実施した地域では、地域の問題を客観的に「みえる化」することによって、関係者の意識が揃い、より効果的な防犯まちづくりが可能になったという声が聞かれます。こうした調査を通じて、その地域の特性に合った防犯まちづくりが各地で行われることを期待しています。

みまもり量調査の結果一例

執筆・監修:独立行政法人建築研究所 主任研究員 工学博士(東京大学) 樋野 公宏

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