防犯まちづくりのススメ

第23回「「手引き」活用事例」

連載第22回に掲載した「防犯まちづくりのための調査の手引き」を、実際に地域の課題解決に活用した2つの事例を紹介します。

ひとつめは旭川市近文地区(小学校区)です。2004年の大規模ショッピングセンターの出店をきっかけに、小学校での防犯や交通安全に関する取り組みが始まりました。その後、社会福祉協議会をコーディネーターに自治会や小中学校、高校、警察、行政などが連携して「近文あい運動」というみまもり活動を行っています。冬期の雪の中でのみまもり活動(図23-1)は非常に大変なこともあって、「(こうした)みまもり活動をしなくても安全・安心な地区」というユニークな目標を掲げる地区です。

近文地区では、みまもり活動によって、実際に犯罪や事故の危険にあった児童数や件数、箇所数は減少していました。この傾向を維持するため、活動方法を改善する手段として、2009年11月以降「みまもり量調査」を実施しました(前回に写真掲載)。あい運動の掲げる目標が、地域の自然な「目」を定量化するという調査の主旨に合致したのも実施の大きな理由です。

みまもり量調査の結果は、近文あい運動参加者に加えて、小学校、PTA、高校生ボランティア、警察、行政などが参加する会議(図23-2)で報告され、ワークショップ形式で対応について意見交換しました。そこでは、みまもり量の低い道路で重点的に活動しようといった意見の他に、旭川の地域特性に根ざした下記の提案もなされました。

みまもり量調査の結果、意外にも、近文地区では夏期よりも冬期の方が地域の「目」が多いことが分かりました。冬期は除雪をする人が屋外に出るためです。そこで、下校時間帯に合わせて除雪をすることが提案され、実践に移されました。

冬期のみまもり活動

ふたつめは松山市久米地区(中学校区)です。2004年度以降、公民館が主体となって子どもから大人まで安全マップづくりに取り組んでいます(連載第21回に写真掲載)。安全マップで発見された課題に対しては、公園の植栽の見通しを改善したり、街灯を増設したりして、地域で力を合わせて解決してきています。

そんな久米地区でも、地域の力だけでは解決できず、毎年、安全マップに課題として挙がる場所がありました。そのひとつが国道の高架下にある福音(ふくおん)公園の安全性です。昼間でも暗く、橋脚による死角があるため、地域で不安に思われていたのです(図23-3)。

そこで「手引き」の「身近な公園調査」を行うこととなりました。まず、地元小学校の全校児童を対象とするアンケートを行い、福音公園は保護者の不安は高いにも関わらず、実は子どもの利用が多い公園であることが分かりました。続いて、専門家と小学生、保護者による現地調査やワークショップ(図23-4)を経て、改善の方針が「大人の目によって守られた、全天候型の楽しい公園」に決まりました。子どもたちにとって高架下の福音公園は、雨天でも利用でき、夏でも涼しい「全天候型」の公園だったのです。

2011年3月、高校生ボランティアの協力により、児童の手形を使ったアートが福音公園の橋脚に設置されました(図23-5)。自分が参加したアートがあれば、児童は保護者を公園に連れてきます。さらに、アートによって通行人も公園に目を向けますし、「何だろう」と公園に関心を持つきっかけにもなります。この連載の初回で「公園の壁に絵を描くことも防犯まちづくり」と書きましたが、その理由が分かっていただけたかと思います。

ワークショップで出された意見

2地区の取り組みの経緯や成果については、「防犯まちづくりのための調査の手引き<実践編>」に詳しく掲載していますので、ご関心のある方はご覧いただければ嬉しいです。

執筆・監修:独立行政法人建築研究所 主任研究員 工学博士(東京大学) 樋野 公宏

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