防犯まちづくりのススメ

第24回「防犯まちづくりのススメ」

ちょうど1年前に始めたこの連載も最終回となりました。これまでお付き合いいただいた読者の皆さまには「防犯まちづくり」のイメージを明確にしていただけたのではないかと思います。ここでこれまで書いてきた内容を振り返ってみます。

防犯まちづくりでは、犯罪者でなく「環境」に着目します(第2回)。そうした理論のひとつが「防犯環境設計」であり、監視性の確保、領域性の強化、接近の制御、対象物の強化・回避の4つを基本原則としています(第3,4,5,6回、図24-1)。この理論の応用例としては、防犯性の高いマンションやアパートの登録・認定制度があり、防犯は住まいを選択する際の大きな要件になりつつあります(第9,10回)。

「防犯まちづくりのススメ」

ただし「防犯環境設計」にも限界があります。広がりを持つ住宅地や都市に安易に適用すると「ゲーテッド・コミュニティ」(第13回)と言われるような閉鎖的な空間を作ることとなります。こうしたまちづくりに対しては多くの批判もあります。一方、北米・カリフォルニア州のアーバインでは、アクティビティ(活動)やアイデンティティ(独自性)を重視したまちづくりが行われていました(第14回)。私はこれを「開いた防犯」と呼び、同様の考え方を持つ研究者ととともに「防犯まちづくりデザインガイド」(第15回、図24-2)を作成・出版しました。これを応用した事例のひとつが、習志野市の「奏の杜」地区です。基盤整備、建物の設計の誘導、防犯活動によって開発段階からの防犯に取り組んでいます(第18回)。

防犯環境設計の4つの基本原則

「開いた防犯」に欠かせないもう一つのキーワードが「維持管理」です。その必要性は、管理水準が低い地域では犯罪や迷惑行為が起こりやすいという「割れ窓理論」から説明されます(第16回)。この理論を応用したのが、「ビューティフル・ウィンドウズ運動」を推進する足立区です(第17回)。「美しいまちは安全なまち」をキーワードに、清掃活動や花植え活動が積極的に行われています。この花植え活動と防犯を結びつけたのが「見守りフラワーポット大作戦」です。安城市篠目町では、児童の登下校時に近隣住民が水遣りをすることで人目が増え、コミュニティが活性化しました(第19回、図24-3)。ほかに植物を活用した防犯対策として、バルコニー前への低植栽設置による侵入対策も紹介しました(第20回)。

防犯まちづくりのデザインガイド

それでは、これから防犯まちづくりを始めようという地域では何から手をつければよいでしょうか。私は「安全マップ」(第21回)をお勧めしています。一般的なマップづくりでは子どもの被害防止能力の向上が目的とされていますが、犯罪を遂行しやすい環境を改善することも目的とすべきです。改善に向けて、地域の課題を客観的に精査・分析する必要のある時には「防犯まちづくりのための調査の手引き」(第22回)を活用していただければと思います。実際に活用した松山市久米地区では、高架下の公園をアートによって安全・安心な空間にする取り組みが行われています(第23回、図24-4)。

安全マップの勧め

ある辞典で私は「防犯まちづくり」を「犯罪の起きにくい環境・状況を作り出すことによる犯罪予防を目的に、住民、行政等が連携して行う活動の総称」と定義しました。ここで重要なキーワードは「予防」と「連携」です。「予防」とは、環境改善によって犯罪を未然に防ぐことです。住民だけ、行政だけで出来ないことでも、様々な主体が「連携」することで実現可能性が高まります。

ここで留意が必要なのは、防犯はまちづくりの至上目的ではないということです。生活の質(Quality of Life)の向上という大きな目的に向け、防災、交通安全、高齢者福祉、地域活性化などのテーマと並行して、総合的な視野で防犯まちづくりを進めていただきたいと思います。

最後になりますが、全24回の連載にお付き合いいただいた読者の皆さまに感謝申し上げます。またの機会に新しい情報を提供できるよう、さらに理論の追究と実践を進めていく所存です。

執筆・監修:独立行政法人建築研究所 主任研究員 工学博士(東京大学) 樋野 公宏

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