第3回「監視性の確保」
前回は犯罪の起こりにくい環境をつくるための「防犯環境設計」という考え方と、それを構成する4つの基本原則を紹介しました。その4つの基本原則で最も重要だとされるのが「監視性の確保」です。 「監視」という訳語はやや仰々しい印象を受けますが、平たく言うと、多くの人の目(視線)が自然な形で届くような状況をつくることです。
この人の目は、警察官や自主防犯パトロール隊のような防犯を意識した人の目である必要はなく、ジョギング中のお兄さんや、縁側に座っているお婆さんの目でも有効です。「自然な形」であることを強調するため「自然監視性の確保」と呼ぶこともあります。整然としたビジネス街より、雑多な下町の方が、屋外で活動する人が多く、行われる活動も多様であるため、自然監視性が高いと言うことができるでしょう。
ただし、見守る人がいても壁が邪魔をして視線が通らなかったり、真っ暗で見えなかったりすると防犯上有効とは言えません。そこで、自然監視性の確保の手段として、見通しを良くしたり、夜間照明を点けたり、死角を解消したりすることも大事です。
図3-1は、プライバシーを確保しつつ、宅地内外の見通しが確保されている様子を表したものです。こうした状態では、住宅内の居住者に見守られる路上で犯罪が起こりにくいと言えます。一方、住宅への侵入を企む泥棒にとっても、路上の歩行者に見られるリスクが高いため、実行を諦めることでしょう。このように、宅地の境界部の見通しを良くすると、宅地の外側(公共空間側)にも、宅地の内側(住宅側)にもメリットがあると言えます。この関係は住宅と公園、公園と道路でも同様です。もちろん、樹木は生長しますので、見通しを妨げないよう適切に枝打ちや剪定を行う必要があります。
さて、人通りの少ない道や夜間の公園など、上記のような手法だけで十分な自然監視性が確保できない状況もあり得ます。そうした状況では、警備員が巡回したり、防犯カメラを設置したりすることも有効でしょう。近年の住宅地には、常駐する警備員や公共空間を映す防犯カメラなどで構成される「タウンセキュリティ」を売りにするものも増え、人気を博しています。ただし、タウンセキュリティはあくまで補完であり、そこに住まう人々の目で安全なまちを築くことが基本であると言えるでしょう。
この4つの基本原則を組み合わせることで犯罪を防ごうとする考え方が「防犯環境設計」です。「人」に着目する方法が事後的なのに対し、犯罪の起こりにくい環境づくりは事前でも可能です。つまり病気になりにくい身体づくりのように、犯罪の「予防」ができるわけです。 次回からは4つの基本原則を順に解説します。