第9回「防犯性の高いマンションの登録制度」
マンションは、特に都市部において一般的な居住形態となっています。私の自宅にも、新聞折り込みやポスティングなどの形でマンションのチラシがたくさん届きます。そうしたチラシを見ると、周辺環境や間取りはもちろんですが、必ずと言っていいほど防犯設備に関する情報も図や写真入りで掲載されています。これはマンションに防犯性を求める消費者のニーズを表していると言えます。
警察庁・国土交通省は、2001年、共同住宅の企画・計画・設計を行う際の具体的手法を示した「防犯に配慮した共同住宅に係る設計指針」を策定しました(2006年改訂)。設計指針はこの連載でも紹介した防犯環境設計の4つの基本原則を共同住宅に適用し、具体的な手法を示したものです。例えば共用玄関では、見通し、照明の明るさ、防犯カメラ、オートロックの設置などについて書かれています。専用部分では、玄関扉や窓の防犯対策、バルコニーの見通し、インターホンの設置などについて書かれています。
この「設計指針」を受ける形で、各都道府県では防犯性の高い共同住宅を認定・登録する制度が実施されています。ここでは、2001年11月に始まった「大阪府防犯モデルマンション登録制度」を紹介します。開始時期は広島、静岡に次ぎ全国3番目ですが、登録された物件数は後で述べる通り全国で最多です。
実施主体は(社)大阪府防犯協会連合会(大防連)で、府内に所在する概ね4階建て以上の共同住宅であれば、分譲・賃貸、新築・既存を問わず申請できます。審査手数料は床面積によって異なりますが、3000㎡未満の場合10万円となっています。審査は、大防連から委嘱を受けた一級建築士と防犯設備士のペア、つまり建築のプロと防犯のプロが行います。審査は2段階に分かれていて、書面審査に合格すると「書類審査適合証」が交付され、広告などに「大阪府防犯モデルマンション登録申請中」と表示することができます。そしてぶじ竣工すると、現地審査と審査会を経て「登録証」が交付されるという流れです。
2012年2月時点での申請数は967、登録数は882と、他の都道府県と比べて圧倒的に多くなっています。売れ残りに悩んでいた物件が、防犯モデルマンションに申請したところ完売したという話や、マンションの購入者に言われて販売者があわてて申請したという話もあるそうです。これらの話は、大阪で登録制度が広く知られていることの表れと言えます。実際、 住宅着工統計を参考に試算すると、府内における新築の分譲マンションの約半数(戸数ベース)が防犯モデルマンションに登録されていることになります。このように、大阪では登録物件数と認知度が相乗的に向上していると言えます。
ただし、いくら防犯性の高いマンションでも油断は禁物です。登録物件でほとんど犯罪は発生していないが、無施錠のために侵入された事例など、被害はゼロではないとのことです。物理的な対策と合わせて、居住者の防犯意識も高める必要があります。