防犯まちづくりのススメ

第19回「緑と防犯(1)見守りフラワーポット」

「フラワーポットに花を植えることも立派な"防犯まちづくり"だというと驚かれるでしょうか?」この連載の第1回で、私はこんな問いかけをしました。

その後の連載をご覧になっている皆さまはもはや驚かれないかもしれませんが、今回は花づくりを通じた見守り活動「見守りフラワーポット大作戦」について、その考え方と事例を紹介します。

私が最初にこの活動を提案したのは、愛知県安城市の篠目町地区です。旧来の住宅地と、土地区画整理事業による新興住宅地から成り、約2,000世帯が暮らす地区です。一般的に、新旧住民の融和は難しいと言われます。この地区でもそうした隙を突かれたのか、犯罪件数が増加した時期がありました。そこで、市、警察、小学校、地元の防犯パトロール隊などの協働による「見守りフラワーポット大作戦」が始まりました。

取り組みの内容はシンプルです。おそろいのフラワーポットを各戸の玄関先などに置いて、子どもの登下校時に水やりや手入れを行うというものです。水やりをする住民の目が児童の見守り(監視性の確保)になることと、コミュニティの活性化による領域性の強化をねらったものです。

地元高校の協力による花づくりの様子

取り組み開始直後のアンケートの結果、約8割の参加者が玄関や門など「道路や公園を見守ることのできる」場所にフラワーポットを設置し、ほぼ毎日水やりをして下さっていました。協力者の約2割は今まで防犯活動に参加したことがない方でした。花を育てるという気軽かつ楽しい活動内容のため、幅広い世帯の巻き込みに成功したと言えるでしょう。

しまた取り組み開始から3か月後のアンケート調査では、「"花がきれい"などと声を掛けられたことがある」「花づくりのことについて、ご近所の人と話をした」という方がいずれも約4割と、コミュニティの活性化という効果も見られました(図19-3)。自由回答欄には「子どもたちに対する意識が変化した」「まちを明るくする良い施策です」とも書かれていて、とても嬉しい思いをしました。

通学路に置かれたフラワーポット

その後、この取り組みは兵庫県、東京都、千葉県などにも広がっています。いくつかの取り組み事例を見させていただく中で分かったことを整理します。

・子育て期世帯の多い住宅地では、子どもの安全に対する関心が高く、活動に対する理解や協力が得られやすい。フラワーポットが置かれた家を親子でめぐるウォークラリーを開催するなど、活動の定着につながるイベントが効果的である。

・比較的高齢化が進んだ地区では相対的に子どもへの関心が低く、活動を始めても、参加者の割合が徐々に低下する懸念がある。そうした地区では、高齢世帯と子育て期世帯の交流を図り、いざという時には互いに助け合う「持ちつ持たれつ」の関係に発展させることが重要である。

その後、篠目町地区では、児童と協力住民との間に顔見知りの関係が出来たという予想外の発見がありました。こうした世代を超えた関係は、子どもの教育面でも有意義だと言えるでしょう。

執筆・監修:独立行政法人建築研究所 主任研究員 工学博士(東京大学) 樋野 公宏

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