第18回「開発段階からの防犯」
今回は開発段階から防犯まちづくりに取り組んでいる地区として、千葉県習志野市の「奏の杜」地区を紹介します。「奏の杜」地区は、都心まで鉄道で約30分のJR津田沼駅に近接する地区で、現在、土地区画整理事業が行われています。面積は約35haで、将来的には7,000人の住民が地区内に暮らすことが計画されています(図18-1)。
地権者等で構成される土地区画整理組合では、「環境」、「景観」とならんで「防犯」を重要なテーマに据え、第15回で紹介した「防犯まちづくりデザインガイド」も参考に、「3つの柱」から成る防犯まちづくりを進めています(図18-2)。
1本目の柱となるのは「防犯に配慮した基盤施設の整備」です。自然監視性の確保(第3回参照)に加えて、住民の活動を促進することで犯罪の起きにくい環境・状況を作り出す「開いた防犯」(第14回参照)をまちづくりの方向性としました。例えば、地区の中央を貫く全長170m、幅員16mの歩行者専用道路は、周囲の住宅と互いに見守りあう関係にあるとともに、イベントなどに活用されることでコミュニティの醸成にも役立つことが期待されています。道路上には、十分な街路灯・防犯灯を設置して夜間の視認性を確保するとともに、住宅地の領域性(第4回参照)を高めるため、幹線道路と区画道路の交差点にはイメージハンプと防犯カメラを設置します。
2本目の柱は「防犯環境設計マニュアル」です(図18-3)。各地権者が好き勝手に建物を作っては地区全体の防犯性を高めることができません。そこで、建物を計画する際に配慮して欲しいことを「防犯環境設計マニュアル」にまとめました。例えば、道路や公園を見守ることができるような窓の配置、夜間の街路を明るくするための門灯や玄関灯の設置などが推奨されています。言い換えれば、地区の防犯性向上に寄与できる「利他的」な建物の作り方を示したものです。
3本目の柱は「防犯まちづくり活動計画」です。まちの成長に合わせた防犯活動を促進するため、市、警察、専門家の協力も得て作成したものです。例えば、犬の散歩や買い物をしながら地域を見守る「ながら防犯パトロール」の推進、住宅や店舗の灯りの夜間点灯を推進する「一戸一灯運動」が挙げられます。この他、新市街地ならではの活動として、遊休地の適切な維持管理や、工事期間中の通学路の安全点検なども明記されています。
そして、これら「3本の柱」を下支えするのが、住民・事業主・地権者などで構成されるエリアマネジメント組織「奏の杜パートナーズ」です※。事業が完了すると地権者で構成される組合は解散しますが、この組織がその役割を承継して共有資産の管理業務、各種ルールの周知・運用、コミュニティ活動の企画・開催などを行います。防犯に関しては、防犯灯、防犯カメラ等の管理、新住民に対するマニュアルや活動計画の周知などを担うことが期待されています。
※ エリアマネジメントとは、居住者・土地所有者・事業主等が費用負担し、地域の生活環境を維持・向上させるため、主体的に取り組む活動を指します。