防犯まちづくりのススメ

第21回「安全マップ」

子どもが犯罪の被害にあわないことは誰にも共通する願いです。しかし、子どもをねらった声かけ事案や連れ去りなどは跡を絶ちません。

図21-1に示すとおり、犯罪は「犯罪企図者」、「適切な犯行対象」、「遂行しやすい環境」の3条件がそろった時に発生すると考えられます。言うまでもなく、子ども対象事案で「適切な犯行対象」は子どもを指します。

安全マップ

この「適切な犯行対象」に対する働きかけとして、全国の学校で安全マップが作成されています。東京都のマニュアルによると、犯罪が起こりやすい場所(入りやすい/見えにくい場所)の判断基準を教え、子どもの被害防止能力を向上させる効果があるとされています。

しかし、私はこうした子どもへの働きかけだけでは不十分だと考えます。それは「クルマに気をつけて!」とどんなに教育しても子どもの交通事故被害がなくならないのと同じです。子どもは道路に飛び出すものですし、ドライバーの不注意が事故を招くことも多々あるからです。また、安全マップで指摘される多数の「犯罪が起こりやすい場所」を避けるように教育すれば、外で遊ぶ子どもはますます減ってしまうでしょう(この問題は「子どもの移動自由性の制約」と言われます)。

そこで求められるのが図21-1の「遂行しやすい環境」への働きかけ、すなわち本連載の主題でもある「防犯まちづくり」です。私は安全マップづくりを、防犯まちづくりに発展させることを提案しています。同じ安全マップでも、主目的が変わりますので、もちろん方法も変える必要があります。以下、第1回で挙げた防犯まちづくりの「重要な視点」も踏まえて具体的に述べます。

・地域の様々な課題に対応するため、子どもと教員だけではなく、地域住民、自治体、警察など様々な主体が参加し、課題を共有すること。そして協働による解決を目指すこと。(図21-2)。

・解決が困難な課題についても、長期的視点を持って継続的に取り組むこと。また日々変化する地域環境に対応して定期的に安全マップを更新すること(図21-3)。

・総合的に暮らしやすいまちづくりに向けて、景観、福祉、交通安全、防災などの視点も加えた安全マップとすること。特に、子どもが地域に愛着を持てるよう、課題だけでなく地域の優れた点を積極的に探すこと(図21-4)。

子どもを犯罪から守るのは大人の責任です。子どもへの教育だけでその責任を果たしたと考えるのは大人として無責任であり、子どもへの責任転嫁とすら言えます。子どもの安全のため、ぜひ皆さんの手で防犯まちづくりを進めてください。

安全マップづくりへの参加

中学生が後輩の小学生を率いる好循環が生まれる

安全マップには地域の多様な長所・短所が書き加えられる

執筆・監修:独立行政法人建築研究所 主任研究員 工学博士(東京大学) 樋野 公宏

プロフィール 樋野氏との出逢い

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