第13回「ゲーテッド・コミュニティ」
この連載の第5回では、犯罪企図者が被害対象に接近することを妨げ、犯罪の機会を減少させる「接近の制御」という考え方を紹介しました。これを住宅地全体に適用したのが「ゲーテッド・コミュニティ」(以下、GC)です。周囲を高い塀で囲み、少数に絞り込んだ出入り口(ゲート)には警備員を置いて部外者の出入りを制限した住宅地で、アメリカ、中国などでは一般的なものとなっています。これらは、防犯を目的としたものだけではなく、ゴルフ場を併設したシニア向けの住宅地や、地位を誇示するようなセレブ専用の住宅地もあります。
私もカリフォルニアを訪れた際、あるGCに車で入ろうとしましたが当然ながら追い返されました(図13-1)。このGCの場合、敷地の広さは200ha近くありますが、出入り口は3カ所に限定されています。敷地内には公園やプールはもちろん小学校もありますので、親たちは安心して子どもたちを遊ばせることができるでしょう。
しかし、こうしたGCに対しては批判もあります。まず、高い塀により地域コミュニティが分断されてしまうというものです。これに対しては、古き良き地域コミュニティなどすでに存在しない、あるいは、GCの中では地域コミュニティを育みやすいといった反論もあります。次の批判は、GCの内側から視線や関心が届かない外側の空間が危険になるというものです。確かに、歩行者にとって高い塀に面した歩道は不安を感じやすいと言えるでしょう。三つ目は、設備に依存して、住民の防犯意識が低下してしまうというものです。オートロック付きのマンションが出始めた頃、自宅玄関の鍵を閉めない人が多かったと聞きますが、そうした状況に対する懸念です。
日本でなぜGCが見られないのか、と疑問に思われる方もいらっしゃるかもしれません。日本では建築基準法により、建築物の敷地が公道に面していなければいけません(これを「接道」と言います)。もちろん公道上の通行を制限することはできませんので、例外を除いて日本でGCを作ることはできません。ただし、8戸程度の小規模な住宅地では、外側を公道に接道し、内側の私道にゲートを設けたものも存在します(図13-2)。
以上では、戸建て住宅地を暗黙の前提として話を進めてきましたが、実は日本の大規模マンションもGCであると言えます。周囲を高い塀で囲み、共用出入り口にはオートロックと防犯カメラが設置され、居住者でなければ地域住民も中に入ることができません。上に例示したGCに対する3つの批判が当てはまるかどうか、皆さんも考えてみてください。
参考文献
Blakley, EJ and Snyder MG (1997) Fortress America: Gated Communities in the United States. Washington DC.: The Brookings Institution.